次の日も愛子は窓からラグビーの練習を見て、動きの早いシャツの男性達を目で追った。それからしばらくは部活の途中で彼等を窓から見つめる行動が愛子の日課になっていた。
ある日、立って窓から身をのりだして彼等の練習を見ていた時、あの黄色いシャツの男性がころがってきたボール目がけて走ってきた。ボールを拾い上げ、頭を上げて二階の窓を見上げた形になった。男性の顔は真っ直ぐに愛子に向けられ思わず目が合った。浅黒く焼けた顔、太い眉、大きく切れ長な目だったが全体的に端整な顔立ちをしていた男性だった。こんなに近くで黄色いシャツの男性は見たのは初めてだった。ちょっとうろついた愛子は咄嗟に両手で窓を閉め、後ろを振り向き自分のいすに戻った。「なんてあからさまなことをしてしまったんだろう・・・失礼な奴だと思っただろうな」愛子は自分の行動を稚拙っぽく思わずにはいられなかった。
翌日、美術室に入った愛子はきのうの自分の行動が悔やまれて、つい窓に目をやった。今日は陸上部だけでラグビーとテニス部は休みのようだった。またその数日後、部室の窓からラグビーの練習を見ながらあの黄色いシャツの男性を見つけた。そろっと窓を開け、こっそりと男性を目で追っていたら、その男性はタックルを決めたその足でこちらに向かってきた。カッカッカッとラグビーシューズの砂を蹴る音が大きく聞こえてくる。あきらかに男性はこちらに向かって足を運んでいた。愛子は自然に胸が高鳴ってくるようだった。
そしてその目は真っ直ぐ愛子に向けられ、視線がぶつかり合った。今度はこの前のような失礼な態度はとれないと思い、軽くはにかみながら笑みを浮かべた。すると男性もニコっと微笑み軽く頷いてみせた。それに合わせ、愛子は軽く会釈した。それから数秒ほど二人は見つめあった。なぜか愛子の鼓動は少しずつ大きな波が打つようだった。頬もしだいに紅潮してきた。その男性の後ろには、白地に紺の横縞が入った部員が駆け足でやってきて「どうしたんすか?先輩」という声がし、男性は「ん、いや、わかった。今行く」と低く太い声で返し、愛子に軽く会釈して足早にグラウンド中央に戻っていった。
愛子はその後、練習は見ずに自分のいすに戻った。自分の足から頭のてっぺんまでじわじわと熱い体温が上昇していくように感じられた。それから先は思うようにクレパスは走らなかった。
つづく